遺伝子治療が検討されている疾患

遺伝子治療が検討されている疾患

すでに実際の治療に⽤いられているほか、
開発中の遺伝子治療も多数あります

遺伝子治療が検討されている疾患

監修:自治医科大学医学部 生化学講座 病態生化学部門
教授 大森 司 先⽣

遺伝子治療はすでに国内で承認されて実際の治療が行われているほか、開発中のものもいくつかあります。

すでに遺伝子治療が治療薬として承認されている疾患
(2021年1⽉現在)

脊髄性筋萎縮症(SMA)

第5染色体のSMN1遺伝子の変異または欠失による遺伝性疾患で、脊髄の運動神経の機能が低下し、筋肉が萎縮していく病気です。なかでもⅠ型は病状が進むにつれて呼吸や嚥下が困難になり、2歳になるまでに人工呼吸器やチューブによる栄養補給を行わないと9割以上が亡くなってしまうとされる重篤な⼩児の難病です。そのため遺伝子治療の研究が進められてきました。2017年には初のSMAの遺伝子治療薬が登場し、国内でも2020年から治療に使われるようになりました。

慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症およびバージャー病)

⼿⾜の先の細い⾎管がつまって⾎液がいきわたらなくなる病気です。ひどくなると潰瘍ができ、最後には細胞が死んでしまいます。再生能力の高い肝臓から出るHGFというたんぱく質の遺伝子を投与することで新しい血管がつくられ、血流を改善させることができるようになりました。

急性リンパ性⽩⾎病(ALL)、悪性リンパ腫(DLBCL)

白血球のうちのリンパ系の細胞が異常に増え、感染や出⾎をしやすくなる血液のがんです。このうち治りにくい難治性のALLとリンパ系組織から発生する腫瘍のDLBCLに対して2019年、白血球の⼀種であるT細胞を改良したたんぱく質を遺伝子導入するCAR-T細胞療法が承認されました。

遺伝子治療の開発が検討されている主な疾患
(2021年1月現在)

X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)

IL-2R遺伝子の変異による遺伝性疾患で、通常は⽣後数ヵ⽉以内にさまざまな重症感染症を発症し、造血幹細胞移植を行わなければ生後1年以内に死亡してしまう重篤な病気です。2002年にフランスで遺伝子治療が⾏われましたが、副作用によって白血病が発症した症例が複数報告されました。

アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症

先天性の免疫不全症で、生後早期からウイルス、真菌などによる感染が重症化しやすい病気です。従来の治療法は高額なADAの定期的補充療法か、限られた症例でしか⾏えない造血幹細胞移植のみでしたが、1990年米国で、患者さんから取り出したTリンパ球にADA遺伝子を導⼊してからだに戻すという⽅法で、初の遺伝子治療が行われました。ただし、1999年にベクターの大量投与による過剰な免疫反応が原因と思われる死亡事故が発生しています。

ADA欠損症、X-SCIDでの遺伝子治療の事故や副作用により、⼀時期遺伝子治療の開発は停滞していましたが、この間、より安全性の高いベクターの研究が進み、レンチウイルスベクターやAAVベクターが開発されました。

血友病

血友病は先天性の出血性疾患(出血しやすくなる病気)です。血液凝固因⼦である第Ⅷ因子が欠乏する血友病Aと第Ⅸ因子が欠乏する血友病Bがあります。重症の患者さんでは関節や筋肉内に出血がみられ、関節内の出血は繰り返すと慢性の関節症になります。治療には欠乏した凝固因子の薬を定期的または出血時に補充するという方法がとられています。

現在、日本でもAAVベクターを用いた遺伝子治療の開発が進められています。

パーキンソン病

神経伝達物質の1つであるドパミンが不足することで、手の震えや歩行困難が現れ、最終的には寝たきりになる病気です。ドパミンの補充やドパミンの分解を防ぐ薬を投与する薬物療法が基本となります。治療効果がみられないときには電極を埋め込む手術などが⾏われることもあります。これに対し、イギリスとフランスではレンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療の臨床試験が実施されています。また、日本では現在、AAVベクターを用いた遺伝子治療の研究も行われています。

日本遺伝子細胞治療学会:遺伝子治療分野における研究開発の状況と課題について:第3回再生・細胞医療・遺伝子治療開発協議会資料 1-3, 2021
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/saisei_saibou_idensi/dai3/siryou1-2.pdf)

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2022年5月作成 MED48L008B